3.振る舞いが情報を比喩する——心地よい「もの」のように
空間にあるべき情報を、どのように空間に出せばよいのだろうか?それが不自然な表現では、出す意味がなくなってしまう。情報の実体化において、物理的な必然は存在しない。スマートフォンを始めとした情報通信機器は、文字や映像による直接表現によって、情報を人が認知可能な形に実体化する。そのような汎用的な方法ではなく、その情報と人の心理、そして生活空間に寄り添う形で表出する必要がある。
そこで、心地よい気配を生む「もの」の性質を参考にする。風鈴を風が通る音、蝋燭の火の揺らめき、ラジオに掛かるホワイトノイズ、水槽の魚が揺らす水面。そういった現象から、私たちは心地よさを感じる。それは、ものの動きが「移ろう」中で発生する「ゆらぎ」から、物理的な必然に基づき、その現象の内容を類推できるからではないだろうか?Metaspaceでは、この性質を参考にして「情報の気配」を創出する。
情報の実体化において、その内容を類推できる——人が「必然的と感じる」ような表現を、ものを通して行う必要がある。そのために、私たちはレトリック、比喩表現に着目した。その振る舞いに「情報を比喩させる」ことで、汎用的・直接的表現のものとは違った、心地よい表現を作り出す。
それは、空間に情報が満ちることで生まれる、現代の新しい感覚なのかもしれない。
原型としてのタンジブル・ビット
MITメディアラボの石井裕教授は、情報を現実空間に表出する手法として、以下の3種を提案した。
こうした情報分野の先行研究も参照する。
- Ambients(アンビエントメディア)
- 建築空間の中の音、光、影、空気の流れ、水の動きなどのアンビエント・メディアを認知の周辺に位置する、サイバー・スペースとのバックグラウンド・インターフェースとして利用する
- Tangibles(タンジブル)
- 手につかみ操作できる物理オブジェクトとデジタル情報をリンクする
- Interactive Surface(インタラクティブな表面)
- 机、壁、天井、ドア、窓などの、建築空間の表面を、物理世界とデジタル世界とのアクティブなインターフェイスに変換する
〈参考書籍〉タンジブル・ビット 情報の感触・情報の気配,2000年