kabe-tonの外観

kabe-ton

鳴島啓介

ある日、カフェでくつろいでいると、後方からキーボードを叩く音が聞こえてきた。きっとサラリーマンがPCで作業しているのだろう。

タイピングの音は「ぱちぱちぱちぱちぱち…」と流暢に叩いていたかと思うと、次の瞬間には「ぱち…ぱち……ぱち…」とテンポが遅くなり、最後は「ぱちぱちぱち…ぱちん!!」と勢いよく叩く音が響いた。サラリーマンの姿は視界には入っていないのに、その人の文字入力に悩んでいる様や、入力し終えた喜びに任せて勢いづく様のイメージがありありと脳裏に浮かんできた。

壁を隔てているからこそ、そこにイメージを補完して豊かな存在感を認識することがあるのかもしれない。

〈kabe-ton〉は、本来スピーカーであるべき所が壁になっており、遠隔地にいる人の挙動が壁に伝わって「トントン」と空間に響き渡る。

忙しなく走り回っているのだろうか、はたまた、こちらにちょっかいを出しているのだろうか。シンプルなアクションの中に、単調な音の向こう側に潜む感情の起伏や息遣いを感じ取ることができるだろう。曖昧だからこそ、奥行きのあるコミュニケーションの在り方を楽しんで欲しい。

kabe-tonの外観

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